決済革命とインターネット時代

小さな店舗での決済革命が注目される背景には、世の中の働き方の変化も影響しているのではないか。物流やシステムを効率化するうえでは、小さな単位で運営するのは非効率です。特にインターネットの世界では、トップと2位の企業が圧倒的なシェアを確保して寡占状態になることが多く、「集約」が起きることが本質であるようにも思えます。しかし、それは一面的な見方でしかありません。ITによる効率化は、従来では維持がむずかしかったような小さな組織でのビジネスを可能とします。机ひとつ・店員ひとりでも店舗運営が可能になるのは、小規模決済を助ける技術が生まれているためです。そこにビットコインも生まれました。規模を追わず、コンパクトなビジネスのままで運営を続けていくというやり方を選ぶ場合でも、利益率は上げやすくなっています。「拡大を目指さないやり方」も「小さなところからスピード重視で広げていくやり方」も、ずっと簡単になりました。このことが示しているのは、現在の変化の本質が「集約」ではなく「多様化」である、ということです。同様のことを、コンテンツ製作と販売を軸に考えてみましょう。

インターネットが登場する以前は、小説でも映像でも音楽でも、世に出るには、なんらかのかたちでマスメディアと関わる必要がありました。そこでは能力はもちろん、運やめぐり合わせも重要です。また、そうした世界で生活していくには、ある程度の「量」を売らねばなりませんでした。物理的な流通の世界には「在庫」が必要です。全国の店舗に流通させるには大量の在庫が不可欠ですし、そもそも、店舗に置かれた在庫すべてが売れるわけではありませんから、その数はさらに膨大なものになります。

現在も、大量の作品を売る「ヒットメーカー」になることが成功の条件であることに変わりはありませんし、ヒットメーカーになるには、数百万、数千万という人々に影響力をもっマスメディアとの関係が重要です。しかし、オンラインで作品を発表できるようになったいま、条件は変化しました。デジタルコンテンツは物理的な「モノ」をともないません。在庫の必要も、物流もいりません。必要なのは、自分の作品を公開するネット上の場所だけです。そのうえでどう作品をアピールするのか、という大きな問題はあるにしろ、以前に比べてより低いコストで、自分の作品を求める人に提供できる環境が整っているのはまちがいありません。このことが示しているのは、ひとりのアーティストが食べていくだけならば、従来に比べてずっと少ない人々に支持されるだけでいい、という事実です。

物理的なメディアをつくって販売すると、製造や販売には多くの人が関わらなければなりません。販売の末端まで考えると、クリエイターひとりに対して最低でも数十人が関わることになります。しかし、物理的なモノをつくらずにネットだけで流通させるならば、宣伝や販売をそれぞれ別の人物が担当するとしても、数人程度ですみます。販売金額が同じならば、ひとり当たりの利益はより大きくなります。クリエイター自身がネットや技術の動向にくわしければ、ひとりだけでやっていくことも(相当に忙しくはなりますが)不可能ではありません。昔ならば数万、数十万の人々の支持がないと生きていけなかったようなクリエイターも、数千、数万人までの「より自分を支持してくれる人々」との関係を維持するだけで創作活動を続けられます。収入が多様なかたちをとりうるということは、人々に無理を強いることが少なくなるということでもあり、幸せをもたらします。そして、そのようにして生まれた作品からは、また新しいヒットの芽が出てくることでしょう。